弐のうそ作品一覧

『きみをよんでるよ』

季節外れの別荘地。聾の管理人・ショウタのもとに、「親子」と称する年の離れたカップルが電話を借りにやってくる。乗ってきた車のカギを無くし、その場で諍いをはじめた恋人たちを見て、ショウタは渋々そのまま別荘に招き入れる。持ち主不在の一軒家のなかで、恋人たちのうそがゆっくり形を変えていく。

DATA

監督・脚本:朝倉加葉子(あさくらかよこ)
26min/HD/16:9
キャスト:森崎さあや 鐘築健二 高木公介

スタッフ 撮影監督:木津俊彦/撮影:花村也寸志/録音・整音:高島良太/衣裳・ヘアメイク:山口陽子/音楽;渡邊智幸/編集:朝倉加葉子/演出助手:松浦博直、森内健介/制作:本間幸子

監督 朝倉加葉子

profile

1977年生、山口県出身。東京造形大学に入学し、映画を撮りはじめる。テレビ制作会社でADとして働いたのち、映画美学校第8期フィクションコースに入学。同高等科修了作品『ハートに火をつけて』を監督し、映画美学校セレクション2008にて渋谷・ユーロスペースで上映される。現在は映画・ドラマの監督と助監督、脚本、編集などを行う。今夏、脚本監督したBSホラー短編ドラマが放映予定。

message

発端は、イーガンの「百光年ダイアリー」という短編だった。人生の出来事が記された日記、それを読んで育った人間はその内容通りに人生を経験し、その日の日記を同じ文章で上書きして書き残す世界の話だ。「見たい」未来と「見ないふり」した未来、そして「見ない」未来という永遠の一時停止。それはまるであれだ、そう恋の話。

コメント

キャスリン・ビグローより男らしい朝倉監督がウソでしょ桃まつりなんて。と思ったらテーマは何とウソ(!)で、題材は恋(?)だという。そうそう。恋をすると人はよくウソをつくよね。体裁を保つのに便利だし。他人の別荘、父と娘、東京への道行き。かりそめで埋め尽された舞台の上でウソが剥がれ落ちたとき、男は怯え、少女と少年は少しだけ距離を縮める。霧のように漂うウソは優しいけれど、それが晴れた朝の旅立ちはすがすがしいよね。
山崎圭司(映画ライター)
持ち主が帰ってこない(=空白の時間)というのがもしもウソならば、「(時間を)すてる」もウソになり、(時間が消失する=)カレンダーがあのように見えることもないはずである。「時間=カギ」は媒介者によって浄化されたかに見えるが、「ウソをつかない=話し言葉を持っていない」男にとって、書き言葉も日記に書いてあることもウソになるはずである。この監督が自分にウソをついていない限り、ウソはどの角度からも肯定されていない。それは怖ろしいほどの理想主義である。つまり「若い」監督が登場したのである。しかも「きみをよんでいる」。
三田格(ライター)