• 過去の桃まつり

    協賛

    壱のすき  小森はるか『the place named』

    • 36min./16:9/STEREO/HDV/2012

                

      監督・脚本・撮影・編集:小森はるか

      録音:鈴尾啓太/菅野慧

      整音:西原尚

      舞台演出・脚本:原麻理子

      舞台戯曲:『わが町』ソーントン・ワイルダー作、額田やえ子訳



      キャスト:原麻理子/遠藤麻衣/栗原たづ/西山朱子/花戸祐介/深堀見帆/宮永聡



    • あらすじ

      戯曲『わが町』(作:ソーントン・ワイルダー)をもとに、田舎町に生きる少女の一日の生活と、『わが町』第3幕の舞台稽古をしている劇団員たちが交互に描かれる。死者たちが生きている世界について話す戯曲の言葉は田舎町の日常に重なると共に、演じている役者自身にも投影される。役者とのプロセスの中で出来上がった作品である。


    • 制作意図

      私が制作する上で重視していることは、撮影現場をつくりあげていくまでの演者とのプロセスです。シナリオから演者に与えられた役、シーンをイメージ通りに再現する作業ではなく、そこに書かれている単語一つひとつをその場所から演者と共に探して行くようなことから始まります。そのプロセスの中で、カメラに映る人、風景、言葉のそのままの姿をよく見ようとすることを大事にしています。カメラの向こう側には決して近づくことはできないけれど、一定の距離からその姿たちの内側、内面へと眼差しを向けることができればと思っています。今回、新たな試みとして、ずっと作品に出演してもらっている原麻理子さんが舞台稽古のシーンの演出をし、稽古が進行していく中で撮影を行いました。


      監督プロフィール

    • 小森はるか KOMORI,Haruka

      1989年静岡県出身。映画美学校12期フィクション初等科修了。東京芸術大学美術学部先端芸術表現科卒業、同大学院在籍。映画、映像作品を制作。主な作品に、映画美学校修了制作『oldmaid』(09)。『彼女と彼女たちの部屋』(09)がイメージ・フォーラムフェスティバル2010にて上映。現在は東北で、震災の記録活動を行っている。


      コメント

      もちろん、完璧な出来ではありません。しかし、随所に「映画」が生々しく息づいており、夜のトンネルから電車が出てくショットにはすっかり魅せられてしまいました。ーーまた、蒲団に寝るショットの苦しさにくらべて、鴨居に吊したシャツを見せる自室のロングショットはみごとなものでした。このあたりから、この人は「撮れる人」だという確信がたかまり、鈍い興奮を覚えました。稽古場も、そこでの人物配置やそれぞれの姿勢や顔の表情、そして台詞のイントネーションもよい。おしなべて、それぞれの画面の光線の処理が優れており、あたりの空気感が伝わってくる。ーーあれこれ不満ものべましたが、思いがけず新しい映画作家の誕生に興奮していることが伝わればと願っています。私の期待など何ほどのものでもありませんが、やはり期待させていただきます。

      ※個人的な書簡として書かれたものより抜粋

      蓮實重彥(映画評論家)


       

      熱い紅茶で口の中を火傷する。たったそれだけのことで私たちの身体は、“いつもどおりのあたりまえ”に支障をきたし、違和感を感じながら一日を過ごすことになる。

       もう少し話しを広げよう。何気ない日常の尊さというのは、その状況を支える心身の些事が失われることで際立つものだ。震災後の東北に何度も通い、人々や町の様子を記録し続けている小森にとって、そのことは、何度も反芻され確認したことでもあっただろう。

       戯曲『わが町』に着想を得たこの作品では、二人の女性をとりまく現実とフィクションの中の生と死、そして生きている私たち見る者の生が、それぞれに揺れながら響き合う。

       それは、死者の声を想像しながら夜明けを待つことを許された、物語の間(あわい)に存在する私たちの、原初的な「生」そのものにこそ、尊さの根があると気付かせてくれるかのようだ。

      長内綾子(アートコーディネーター/Survivart代表)


       

      演技する存在/存在する演技としての人をめぐって思索する一作は、舞台稽古に励む女優と、平凡な田舎の一日を過ごすひとり、交わらない筈のふたつの線を追いながら、ふと気づくと互いが互いを侵食する時空へとしっくりと迷い込んでいる。

      ※全作品レビューより抜粋。全文はパンフレットをご覧ください。

      川口敦子(映画評論家)


       

    • Line-upへ戻る